新春初夢リリース開催中&作品徹底レビュー
by 森一馬あけましておめでとうございます。
2024年もどうぞよろしくお願いいたします!
早速ですが、窯と土オープン以来3度目の年末年始。初年度ひっそりと初め、昨年は割りと大々的に開催した元旦リリースを毎年恒例のイベントにしようということで、本年も厳選作家による素晴らしい作品を元旦0時にリリースさせていただいた。新年最初のリリースということで、せっかくなので個々の作品について少し掘り下げてみようと思う。
五十音順に、まずは当店久々の新作となるアマンダトンさんの抹茶碗。
アマンダトン The Perfect Imbalance 抹茶碗 「龍」
彼女の作品のメインテーマとなるパーフェクトインバランス(陰陽)の手で作られた「龍」と銘が打たれた抹茶碗。マットな白いボディに水墨画の黒龍が飛翔するような模様が表現されており、まさに2024年の干支に相応しい一碗。現在彼女は、出身地でもある香港と、学生時代から長く過ごしたロンドンを拠点に活動しており、本作品はまさに日本で得た美的感覚と、欧州を感じさせる造形美、そして母国の古代思想でもある陰陽を組み合わせた作品。ルーシー・リーを思わせるスマートな造形でありながら、細部を見ると、例えば高台の作りはしっかりと茶の湯の侘びが感じられ、高台内の縮緬皺や兜巾までしっかりと削り込まれている。また内側にかけた釉薬も、ほんの少し口縁脇に溢れさせることで、そこにも艶とマットという陰陽表現が感じられる。外側の龍に見立てられる模様はもちろんのこと、見込みや高台に絶妙なバランスで現れる黒模様は作品に動きを与え、スマートでマットな磁器質のボディをリズミカルに彩っている。まさに陰陽、侘び、ミニマリズムを併せ持った素晴らしい作品。共布、箱を包む風呂敷まで自らが染め付けで制作し、共箱裏には龍の文字が認められている。
伊藤北斗 釉刻色絵金銀彩 茶盌
龍をモチーフにした特別な作品を作って欲しいと一年前から懇願し、なんと今回当店のために制作してくださった美しい2碗は伊藤北斗さんの新作。まずは伝統工芸展で用いている銀彩を全面に使用した気品あるボディに、冒頭で触れたカラフルな龍が舞う美しい茶碗。
銀彩の白の裏より浮き出るように描かれた木々はとても美しく、自由に泳ぐ龍と月の存在感をより一層際立たせる。銀彩の白の中に所々プラチナ一珍が仕込まれており、それらが雪のような美しさを演出している。手びねりならではのほのかに歪んだ造形が手に馴染む、まさに使える美術品の極上品といった雰囲気だ。
伊藤北斗 釉刻色絵金銀彩 面取茶盌
そしてまさしく現代アートの登場である。今季の新たな手として取り入れたプラチナ一珍と緑色で外側を彩り、見込みに銀彩で龍が描かれた作品。いつも細部までしっかりと書き込む北斗さんが、面と色合い、一珍のみで魅せるという、まさにミニマリズム抽象絵画のような作品。よく見ると面取りで彩られた緑や青も下地にストライプが用いられていたり、実は様々な色が用いられ一つの色を作り上げているのがわかる。また光の入り方でプラチナ一珍も白や銀など様々な見え方をするので、見れば見るほど深みを感じられる。
ほのかに青みがかった見込みに現れる龍がなんとも味わい深く、まさに使うたびに喜びを感じられる作品。ここまでミニマルに仕上げながら、高台脇はやっぱりいつもの北斗さんといった辺りに親しみを感じる。茶席でも映えることは間違いないが、洋間でお茶を嗜む際にも馴染む作品だ。
加藤真美 常滑灰釉茶盌
加藤真美さんの新作を彼女のアトリエで見た瞬間とても驚いた。新作は磁器と思い込んでいたら、まさかの陶土。焼締めの肌に灰釉がどっぷりとかかった穴窯焼成の作品は、一瞬筆者の思考を停止させた。
たたらで造られた造形はまさに真美さんのそれそのもの。しかし透き通った磁器×フロスト釉の組み合わせとは全く異なるいつもの造形がそこにあった。常滑の山土と川土を合わせて造られたというこの一碗、穴窯焼成の焼締めならではの味わい深いボディはところどころ炭化し、ホシが現れまるで宇宙。
どっぷりとかけられた灰釉は見込みにさらなる宇宙を作り、こりゃ美しいでいかんわ!と思わず言いたくなる。鉄分の多い常滑の土が生み出した、まさに常滑の壺が現代の意匠で蘇ったようなまさに承前啓後の一碗。真美さん、また穴窯焚かれる際は同手をぜひお願いします!
続いてお馴染み金さんの作品、今回はまさかの井戸ではなく、、、
金宗勲 鉄釉茶盌 銘「北漢山」
2017年に造られたという今作品。作家自身が気に入って使っていた作品をこの度光栄なことに当店に収めていただいた。益子の鉄釉や薩摩筒茶碗を思わせる、鉄釉と灰釉による掛け分け茶碗は作家のオリジナル作品。小ぶりな筒型のボディに流れる鉄釉は様々な色合いに窯変し、正面の灰釉は色合いと貫入だけでこの上ない景色を作り上げている。大胆な土見せは、荒々しい土の質感と緋色に国焼の土との違いが垣間見える。高台、高台脇の激しさは尋常ではなく、またいわゆる絵画で言うキャンバスむき出しの塗り残しのような、はたまた風にさらされ朽ち果てた欧州の古城跡のようないわゆる「風化感」がたまらない。
無作為で造られる井戸茶碗の端正なそれとはひと味もふた味も違う作家のオリジナリティが強く感じられ、そこにはしっかりと我々好みの「もののあはれ」的な美的感覚が存在している。ともすると民藝調になりがちな鉄釉だが、そことは一線を画す作品感がしっかりと感じられるあたり、やはりこの作家は凄まじいと言わざるを得ない凄みを備えた作品。
後関裕士 蒼変黒茶盌 Void#2 改
当店でも人気の後関裕士さん。こちらの蒼変黒の茶碗は、二周年作品展「紅蘭紫菊」にて【Void Ⅱ】として出品したのだが、「口縁の割れに金継ぎをしたら良くなるのではないか」と作家と相談し会期中に取り下げ、金継ぎを施していただき再び収めていただいた、いわゆる【Void Ⅱ 改】とも言える作品。穴窯の棚板に溜まった蒼を含んだ液体が偶然茶碗の外側に落ち、この蒼い空間を作ったという、まさに自然が生んだVoid。そしてまるで最初からそこに施されていたかのように端正な金継ぎが施され、黒に流れる黄金の灰釉が金継ぎと引き合い新たな景色を生み出している。
程よいくびれが手に馴染む美しい造形、口縁の山道や、高台の釉溜まり、そして見込みの斑な色づき等、たくさんの見所があり、緩やかな造形ながら程よい緊張感を持った作品だ。
後関裕士 白泥茶盌
白泥茶盌と名付けられたこちらの作品は、拠点としている桧山からほど近い益子焼にインスパイアされた作家が生み出したオリジナル作品。正面は雪景色の丘陵に霜が降りるような冬景色。茶碗を回すと丘陵はなだらかになり、ほのかに青みがかった冬の夜景に変わる。
白釉には所々貫入が入り、また火前部は縮れを雪や雨などと見立て楽しめる。また見込み奥は青くしっかりと色づいており、高台脇の土味も良きに。包み込むような造形と景色は、まだにこの季節に相応しい一碗だ。
鈴木徹 三彩茶盌
「徹さん、これはヤバいです」がこの作品に初めて触れたときの筆者の一言。なんとボキャブラリーの少ないものか。「若者かよ!」と突っ込みたくなるような語彙力の乏しさだが、この鎬で削られた歪んだ造形こそ、他のどの造形よりも難しいと筆者は思っている。一歩間違うと古くささを伴った昭和の面影に見えてしまいがちな造形を、絶妙なバランスで非常にハイセンスに仕上げてしまうところは筆者が言うまでもなくさすがの一言。ケミカルウォッシュのデニムをお洒落に履きこなすオシャレ番長のような、一歩間違うと結果が180度違ってしまうギリギリのラインを上手く纏めてしまう徹先生の技術とセンスを、若い作家は是非見習っていただきたい。言うまでもなくどこから見ても美しい造形、そしてずっと作家が突き詰めてきた三彩のコントラストも素晴らしく、緑釉部分にはしっかりと乳白色が現れ、高台脇の外しや釉溜まりも絶妙。
見込み奥にも乳白がしっかりと景色を作り、見れば見るほど新たな発見がある作品。この緊張感とセンスを持ち合わせた造形こそ、次世代に伝えていかなければならない無形文化財だと筆者は思う。
多田幸史 幾何紋金白金彩 皿
ここ2年の多田さんの活躍たるやまさに飛ぶ鳥を落とす勢い。地元金沢から全国区まで、様々な公募展で賞を総なめしており、今や九谷を代表する作家へと上り詰めた。古九谷を現代的解釈し、伝統的な手法と現代的な幾何紋を組み合わせ斬新な作品を生み出し続けている多田さんの最新の幾何紋作品。九谷の白、余白を残し、進化した力強い幾何紋が皿の渕から内部にかけて彩っている。よく見ると所々非常に細かい紋様が金銀彩で描かれており、作品にリズムを与えている。
金銀彩にプラチナと個々では派手な色合いを用いているにも関わらず、全体の雰囲気としてはシックな色調にまとまっているのも、まさに色の組み合わせの妙といえる。使いやすいサイズでもあるので、特別な時に素敵な食材を盛り付けして使ってみたくなる作品だ。
通次廣 柿の蔕茶盌
いやはや、まさに名碗の香り。
思わず感心してしまうほど、雰囲気のある柿の蔕茶盌である。ほんのり赤みを帯びたボディと造形は名碗、大津を思わせるが、ここまで気配を持った作品はもはや名物碗と比較するのもナンセンス。古色など一切施さず、焼きでこの古き良き味わいを表現する姿勢に作家の強い高麗茶碗への情熱を感じざるを得ない。腰高に張りを作ったまさに高麗茶碗のお手本のような造形、
侘びの極みとも言える肌、悠久の時を経たような見込み、端正で心地よい高台。柿の蔕茶盌は数ある茶盌の中で最もお茶が映える茶盌の一つだと思っているが、まさにお茶が冷めるギリギリまで眺めていたくなるような景色が楽しめるだろう。高麗茶碗に魅せられた男の魂の一碗。
光藤佐 鉄絵線刻龍文皿
鉄絵線刻は光藤さんの作品の中でもとても人気の作品だが、その中でもまさに今年に相応しい龍文の大皿。鉄泥にて筆で描かれた絵に、針堀りで文様が刻まれている。27cmの大きなキャンバスに空飛ぶ龍や雲が大胆に描かれた、迫力のある作品。
表面にはガラスのように細かな貫入が入っており、流れる緑釉も美しい作品。辰年の食卓を飾るのに相応しい作品だ。
若尾経 象牙瓷酒盌
青磁を作る際に調合と焼成を間違え、偶然出来たという象牙瓷。名付け親は三輪龍氣生先生。ぽってりとした白釉と金箔のコントラストが美しい作品だが、今作は見込みに赤い金箔が用いられ、よりゴージャスに仕上がっている。
小服茶盌に近い大ぶりなサイズだが、透き通った酒により赤が映えるということで酒腕としての発表となった。特別な時に是非使いたい作品だ。
そして最後に、ここからは昨年御年90歳を迎えられた鼡志野の神様、若尾利貞先生の作品を身に余る思いながら紹介させていただく。
若尾利貞 鼡志野水指
もはや何を言及しても作品のパワーにかき消されてしまう気すらしてしまうほど重厚で、絶対の存在感を持った作品。侘びを感じさせる緋色を伴った鼡色の肌に、ガス窯焼成のパイオニアが長く追求し生み出した艶のある肌と桃色に窯変したボディが引き合い、なんとも言えない色気を放っている。
まさに極上の美術品の趣でありながら、前方の造形を歪め茶道における水指としての実用性がしっかりと考慮されており、そこに工芸としてのさらなる魅力が感じられる。現代茶道具の最高峰といえる、美濃の巨匠の至高の名作。
若尾利貞 鼡志野花器
そして元旦リリースの最後を締めくくる作品は、若尾利貞先生の果てしなく長く輝かしい陶歴の中でも最も重要な作品と言っても過言ではない作品。筆者はこの作品を拝見した時瞬時に頭に浮かんだのは、グスタフクリムトとウィーン分離派、そして琳派の融合。数年前に焼いてあった鼡志野のボディに、最近になって金銀彩を施したという御大の大変貴重かつ、唯一無二の最新作。このような作品を収めていただけるとは、まさに身に余る思いだ。
作品の解説など必要ない、いやもはや筆者が語るなど恐れ多くいので、最後は利貞先生の貴重なお言葉を一語一句変えずそのまま記載させていただき、2023年の締めとさせていただく。
「日本は黄金の国と呼ばれ、室町時代から障壁画などもほとんど金が使われていますよね。ジャポニズムなんて言われて、それはまさに雅の世界。それと利休さんが求めた、焼き物を中心とする侘び寂びの世界。その雅と侘しさという相反する2つの世界を同時に表現したい、そういったものを追い求めて歩んできて、ここにきて初めて僕のものが出来たんじゃないかなと。ここまで歩いて探し求めたものが、やっと光が見えてきたかなと、そう感じています。」
ということで新年早々5000字超えのレビュー、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。作品ページにはより詳細な写真も掲載されておりますので、是非ごゆっくりご覧いただけましたら幸いです。
それでは、2024年もどうぞよろしくお願いいたします!
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