静岡陶芸美術館「鈴木蔵vs若尾利貞」展へ
by 森一馬窯と土がオープンした11月、多治見の若尾経先生のところを訪れた際「沼津に面白い美術館があるから寄ってみたら?」と教わったのが、表題の静岡陶芸美術館。そのチラシにはなんと「現代志野の双璧 鈴木蔵vs若尾利貞」の文字が。そしてその展示には両巨匠の作品とともに、ご子息であり当店でも紹介させていただいている鈴木徹先生、そして若尾経先生ご本人の作品も展示されていると。これは行かねば!ということで、静岡陶芸美術館に行ってきた。
沼津駅から車で数分、ららぽーと沼津の真ん前にある、令和元年にオープンしたばかりのこちらの美術館。館長の植松弘行さんは建設会社を営んでいるということ。さすが、この辺りでは目立つ風変わりでオシャレな館。
館内に入ると、そこは広々としたとても明るいオープンな雰囲気。早速両巨匠の所蔵作品が目に飛び込んでくる。
まずは館長が師と仰ぐ若尾利貞先生の作品。茶盌から大皿、蓋物まであらゆる作品が並ぶ。
最高。
この世に4本存在するこちらの赤絵の梅瓶、なんと3本がこちらに!残り1本は若尾先生宅の応接ギャラリーに。「これだけのサイズの梅瓶の轆轤を挽けるのは若尾先生ぐらいだ」と館長。幅広い作風を持つ利貞先生の作品を一気に見ることが出来た。
そして対する鈴木蔵先生。
蔵先生の持ち味とも言える大ぶりで力強い作品が並ぶ。志野への情熱を感じる美しい緋色。ダイナミックな造形。
茶盌はもちろんのこと、水差しや花入れ等力強く迫力のある作品に目を奪われた。ガス窯を用い現代志野を完成させた、まさしく志野の双璧といえる巨匠お二人、それぞれ特徴をしっかりと捉えた作品が多数展示されており、じっくりと時間をかけて楽しむことが出来た。
蔵先生のお隣から飛び込んでくる美しい緑釉は鈴木徹先生。
当店でも取り扱わせていただいている最新手の三彩作品も。ここ数年、萌生をテーマに植物や木々の芽吹く様を表現してらっしゃる鈴木徹先生の緑釉からは、生命が宿る瞬間のパワーや爆発力のようなものを感じる。
そして目に飛び込む氷のような二重貫入は、当店お馴染み若尾経先生。青瓷大皿の迫力。
ベースに陶器と磁器を混ぜ合わせた最新手の青磁茶盌も。光の当たる磁器部分がしっかり透けている。そして大迫力の特大青瓷オブジェが展示のラストを締める。まさかこのサイズのオブジェが見られるとは。。。
ということでお腹いっぱい大満足な展覧会だった。このブログで紹介した作品は一部に過ぎないが、静岡陶芸美術館のインスタグラムでは殆どの展示作品が網羅されているので、是非そちらをチェックしてみていただきたい。
巨匠たちの作品を十分堪能した後は、この美術館の見どころの一つでもあるカフェへ。こちらではなんと、人間国宝をはじめ様々な作家の作品の中から好きな作品を選んで、そちらでコーヒーや抹茶をいただけるという、夢のような空間。
今回展示されていた鈴木蔵先生、若尾利貞先生の作品も。その中から筆者は、作品的にも人間的にも大好きな若尾経先生の作品をチョイス。
鈴木三成先生の巨大青磁作品の前で、経先生の青磁茶盌で一服いただく。まさに至福のひととき。都内にこんな空間があったら、確実に週3日は通うのに。。。沼津市民が羨ましい。
ということで本日紹介した「現代志野の双璧」展は、12月26日まで開催。そして年明け1月6日からはなんとなんと人間国宝展を開催するという!
37人いる全ての陶芸の人間国宝の作品を3作品ずつ並べるという狂気じみた企画。 都内の美術館で開催されれば確実に行列ができる展覧会が、静岡の沼津で開催されるという驚き。これは筆者も絶対行かねばだし、少しでも多くの方に知っていただきたい。来春の旅行は伊豆辺りに一泊して、翌日静岡陶芸美術館に決まり!
美術館を十分楽しんだ後、せっかくなので館長に少し話を伺った。自らも陶芸を嗜んでいるといらっしゃるという館長。美術館横にあるこのスペースでは、年間会員の方々が陶芸体験をすることができる場所だという。「何日かけて陶芸を習うというのではなく、1日で簡単に体験していただきたいため、ここを作った」とのこと。
「私の美術館は、陶芸を作り手の視点で見て素晴らしいと思う作品を集めている。」と館長は言う。村田亀水、宮之原謙など、技術と品を持ちながら、世間から正しく評価されていたとはいい難い作家の作品を中心に集め、それらを展示することで、しっかりと世間に評価してもらいたい、そういった想いがあるようだ。特に村田亀水さんの作品は300点ほど所蔵しているという。「若い頃は年に2回は亀水さんのお宅へ伺って、そうすると亀水さんは和室に自分の作品を並べて、どうどすか?と。作品について丸一日話して帰ってきたもんだ。」と目を細める。「日本の陶芸は世界一。唯一世界に誇れるものだと言っても過言ではない、白洲正子の言を借りれば、割れた器を売る人、金を使って直して使う民族は日本人ぐらいだと。日本人がそれぐらい焼き物が好きな民族だったのに、日本の陶芸はどんどん衰退している。日本が唯一世界に誇れる焼き物という文化を、微力ながらしっかりと支えていきたい。」と、陶芸に対する熱い想いを語ってくれた。
静岡陶芸美術館
静岡県沼津市東椎路50-1
開館時間 10時~17時(入館は16時30分まで)
休館日 月曜日(月曜祝日は場合は火曜日)
☎055-919-3456
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後記
日本の陶芸は世界に誇れるものだとは、まさしく筆者が昨年初めて陶芸に触れた時に感じたことだ。ファッションバイヤーとして世界中を飛び回って洋服を仕入れて十数年。ずっと逆に、日本から海外に持っていけるものを探し続けてきて、ようやく昨年「これだ!」と出会ったのが陶芸だった。それから「なぜこれを知らなかったのか」と思うほど陶芸鑑賞に没頭し1年、勢いと情熱だけで全国を周り、窯と土を立ち上げた。今じゃパリに行くより多治見に行きたい日々。
筆者は陶芸を嗜んではいないため、視点は館長とは違うものの、音楽やファッション等あらゆるカルチャーを通ってきた目で陶芸を見て、それがファッション好き、音楽やアート好きの方にも受け入れられるものであることは確信している。窯と土をオープンして1ヶ月足らずで、すでに周りのデザイナーや、また焼き物なんて地方のお土産屋でしか見なかったという人たちから、ポジティブな反応をいただいており、そういう瞬間がとても嬉しい。少しでも多くの方に陶芸の素晴らしさ、美しさを知っていただきたいという想いは館長と同じ。筆者はまだまだ駆け出しだが、形は違えど同じ志を持った大先輩の熱い話が聞けたのは貴重な経験だった。国内でしっかり陶芸を広めて行き、移動制限等が解除された暁には、海外のファッション好きに日本の陶芸の素晴らしいを伝えていきたい、そんなことを考えている。