【小町艶技】アマンダトンの現在地
by 森一馬アマンダトンさんの作品に最初に惹かれたのは、「Perfect Imbalance」シリーズに見られる、陰陽の感覚を取り入れたモノトーンの造形だった。東洋的な思想とイギリス的なデザイン感覚が静かに重なり合うその佇まいに、強く心を掴まれたのを覚えている。
その後、彼女の制作背景や暮らし方を知るにつれ、作品への興味はさらに深まっていった。アートワークが特別なものとして切り離されているのではなく、日々の生活や価値観の延長線上に、無理なく存在している。そのあり方そのものが、彼女の作品世界をより豊かなものにしているように感じられた。
ロンドンの大学でセラミックデザインを学んで以降、アマンダの制作は一貫して、自身を取り巻く環境や文化、そこで生きる人々の物語と結びついてきた。
「大学で陶芸を学んでから、私の作品はいつも、自分のまわりにある物語や文化についてのものだったと思います。世界のさまざまな場所で生活することで、異なるライフスタイルを知り、それを作品に織り込んできました。」
現在の彼女の生活は、はっきりと四季のリズムに寄り添っている。春から夏、秋にかけてはスタジオでの制作だけでなく、地域社会や環境に関わるプロジェクトにも積極的に関わり、土地と人との接点を持ち続けている。
「農家の方たちと一緒に働いて土にふれたり、食というものがどこから来ているのかを知ったり、世界各地の植物と向き合う時間は、私の制作にとても大きな影響を与えています。」
そうした経験の積み重ねから生まれたのが、昨年末より当店にて取り扱っており今回出展していただいた、自然染色による《Mono no aware》シリーズだ。それぞれの作品は、特定の土地と季節に根ざした色と気配を宿している。
「《Mono no aware》の作品は、その土地や季節そのものを映し出しています。今回はアーティストインレジデンスで信楽に滞在した際に、信楽で見つけた木々の葉っぱを集めて染付しました。移ろいゆく自然とともにある感覚を、大切にしたかったんです。」
一方、冬になると彼女は制作から一度手を離し、雪山へと身を移す。スノーボードのコーチングやトレーニングに取り組むこの時間は、身体的にも精神的にも大きな転換点となっている。
「冬は手を休めて、雪山で過ごします。環境が大きく変わることで、自分の考えを整理する時間が生まれ、シーズンが終わる頃には、また新しい気持ちで制作に向き合えるようになるんです。」
日本での暮らしを通して、彼女は「季節とともに生きること」の美しさを、より深く実感するようになったという。
「日本で暮らすことで、季節と調和して生きることの大切さを学びました。それは、私にとって本当に大きな贈り物です。」
作家としての現在地について、彼女はこう語る。
「人生を重ねるごとに、物事には深みが増していくと感じています。今は、達成だけでなく、失敗や迷いも含めて、すべてが自分を形づくっていると感じられるんです。」
長年取り組んできた《The Perfect Imbalance》シリーズについても、近年、意識の変化があった。
「12年間続けてきた《The Perfect Imbalance》では、自分で自分に制限をかけていた部分もありました。でも最近は、その制約を手放し、もっと自由に、作品が自然に変化していくことを受け入れられるようになってきました。」
前述したよう、私自身《Perfect Imbalance》に見られる陰陽の感覚——東洋思想とイギリス的造形意識が交差する魅力を強く感じてきた。しかし、《Mono no aware》では、そこに日本的な「移ろい」の美しさが加わり、より深く、静かな強度を帯びているように思う。それでいて、アマンダ特有の健やかで伸びやかなインバランスさは、むしろ際立っている。未来について、彼女の視線は環境へと向いている。
「気候変動が深刻になる中で、作り手として、制作の廃棄や環境への影響に責任を持ちたいと思うようになりました。」
彼女が関心を寄せる「Circular Ceramics」は、循環型経済の考え方を陶芸に取り入れ、廃棄を最小限に抑える試みだ。
「削減、再利用、リサイクルを前提とした制作は、限られた資源への依存を減らし、環境への負担を軽くする可能性があると思っています。」
自然と協働しながら、美しさと責任を両立させること。アマンダ・トンの現在地は、エシカルで健康的なライフスタイルと、しなやかな造形が無理なく結びついた地点にある。季節とともに暮らし、土に触れ、手を休め、また作る。そうした生活のリズムや思考が、そのまま作品のかたちや色、佇まいへと結びついている。いまの彼女は表現と生活、思想と造形を無理なく往復しながら、自分にとって誠実な場所や時間で作陶という行為を続けている。
それがいま私が感じているアマンダトンの現在地だ。