一念不動 相賀真志郎インタビュー
by 森一馬当たり前のことだが、私は日々さまざまな陶芸家のもとを訪ね作品を選んでいる。作家のスタンスはそれぞれで、窯から出た作品をすべて見せてくれる方もいれば、ある程度自分の中で選び抜いたものだけを見せてくれる方もいる。
「本当に自分が納得のいくものだけを残し、それ以外は潔く壊してしまう」
世間一般がイメージする陶芸家はそうなのかもしれないが、現実にはさまざまな理由から、その理想を言葉通りに徹底することは、限りなく難しい。
相賀真志郎さんのことを知ったきっかけは、実は彼のお父様だった。
萩焼について調べていた際、萩焼を研究されているお父様とご縁がありお話を伺う機会をいただいた。古美術商でもあり、萩の歴史や成り立ち、そして現在の萩焼についても非常に深く通じておられる方だった。電話での会話だったが、一時間以上にわたり熱く語ってくださり、私が持っていた古萩についてもさまざまな角度から丁寧に説明してくださった。そして電話を切る直前、ふと思い出したようにこう仰った。
「あなたは現代を扱っておると伺いましたが、息子が備前のほうで陶芸をやっとります。アイカと言うんですが、まぁ機会があったら見てやってください」
電話を切った直後は、伺った萩焼の話を自分なりに整理していた。けれど時間が経つにつれその「アイカ」という響きがどうにも気になり始めた。あれほど熱心なお父様の御子息であれば、きっと強いこだわりを持った作品を作っているに違いない。しかし手がかりは「アイカ」という言葉だけ。名前なのか、苗字なのか。名前だとすれば女性なのだろうか。だが、お父様は確かに息子と仰っていた。
そんなことを考えながら何日かかけて調べ、ようやくたどり着いたのが相賀真志郎さんだった。
相賀さんは広島生まれ。現在は倉敷に住み、窯は牛窓にある。
今回伺ったのは、その倉敷の住まいだった。
「ご存知の通り、父の影響で小さい頃から古美術に囲まれて育ちました。特に古備前が多く、ほかにも古萩や信楽など、さまざまなものを見る中で、自然と焼き物に興味を持つようになりました」
案内していただいた茶室内には古陶やご自身の作品が並ぶ
一度料理関係で働いたという相賀さん、でもやはり焼き物への興味が勝った。
「陶芸をやろうと岡山に来たのは22歳の時です。備前の陶芸センターで2年間学び、その後は陶芸教室の指導員をしながら焼き物の勉強を続けました。30歳ぐらいの頃に、牛窓に穴窯を築きました」
その頃、偶然近くに住んでいた安倍安人さんと出会い、その作風に強く感銘を受けたという。
「幼い頃から見てきた古備前が、私の中にある基本であることは間違いありません。ただ、その形や意匠をそのまま写したいという気持ちはないんです。古備前と今とでは、素材や窯、焼き方も違います。最近のさまざまな研究や自分自身の経験を通して、少しずつ“古備前はこうだったのではないか”というものが見えてきている感覚があります。土も山から自分で採取し焚き方も工夫しながら、そこは追い求め続けたいと思っています。ただ、手法として古美術をなぞるのではなく、自分が現代において影響を受けたものや、経験してきたことを作品に出していきたい。その結果として古備前に通じるような雰囲気を持ったものが作れたらと思っています」
窯焚きは月に一度。薪窯のみで行う。
ひとつの茶盌を作るのに4、5回焼成を重ね、大壺などでは20回以上焼きを重ねることもあるという。
「自分が納得できないものは壊してしまいます。非常に歩留まりが悪く、非効率だということはわかっています。しかしそうでなければ私が陶芸をする必要がないと感じてしまうんです。自分が良いと思うものを近くに置いておきたい。それを誰かが求めてくださるのであれば、本当に嬉しい。ですが販売ありきで作っているわけではありません。自分が納得できるかどうか。そこがすべてです」
年間に作れる茶盌の数は、ほんの数点。5点にも満たない年もある。壺ひとつに2年をかけることもあるという。では、そこまで非効率な相賀さんの作陶を支えているものは何なのだろうか。
「やはり、作っている時間が一番楽しいんです。特に窯を焚いている時間ですね。火と対話しながら、自分が浄化されていくような感覚があります。あとはやはり、私自身がお茶碗や古美術を本当に好きなんです。こればかりは離れられない。だから、作れるかどうかは別として、そういったものを作り続けて少しでも近づきたい。ただその一心です」

納得できるものだけを残すという、言葉にすれば簡単でありながら、実際には作り手にとって最も難しいことを、相賀さんはまるで当然のことのように語る。その無邪気なほどの実直さは、作品にもそのまま表れている。気持ちが良いほど迷いのない造形、火を受け止めた力強く艶のある肌、そして深く現れた窯変。そのすべてに、相賀さんという作家の嘘のなさが滲んでいるように感じた。
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