旅する陶芸家 塚本治彦インタビュー
by 森一馬小林勇超さんの紹介文で、あれだけスピリチュアルに興味はないと言いながら、またしても少しスピリチュアルなお話になってしまうが、今回筆者の掌レーダーが反応したのは塚本治彦さんのお茶碗。いつも通り失礼ながら全く予備知識無くお邪魔させていただいた塚本さんのお話を伺う中で、塚本さんのお師匠さんが、なんと信楽の小林勇超さんが美濃に滞在した際にお世話になったという茶陶の作家、野中春清先生だというから驚きだ。野中先生の茶陶の魂が、お弟子さん(正確にはお二方とも内弟子といった形でなく、薫陶を受けられたといった形だが)の茶碗を通して筆者に伝わったのかと思うと、やはり茶碗には目には見えないスピリットが宿っていると感じざるを得ない。
塚本治彦さんの作品を拝見し、まず目に止まったのは辰砂の茶碗だった。辰砂と聞けば李朝や国内の民芸作品が浮かぶが、それらとは全く意匠の異なる、造形の美しい辰砂茶碗に惹かれ、コンタクトを取ったところ「明日から1ヶ月間、タヒチで作陶するので、帰国した頃是非いらしてください。」と。タ、タヒチ。美濃の陶芸と1ミリも繋がらなそうな国名に驚いたが、本当にちょうど一ヶ月後に連絡をして、すぐに伺った。
まず、外観に驚いた。武家屋敷の門でお出迎えである。名古屋の武家屋敷から一宮に移築された門を人を通して受け継いだという、風格ある門をくぐると、これまた素晴らしい建築が。玄関の扉脇にはご自身で制作された織部の陶壁がドーンと埋め込まれ、そして20畳はある応接間には、方々にアンティークの柱時計が飾られている。「自分の仕事が土を削って形を作る、言ってみれば大まかな仕事だからでしょうけど、細かいパーツを組み合わせて緻密に作られる、言わば自分の仕事と真逆の時計なんかに惹かれるんです。」
塚本さんは美濃は土岐市、駄知町の生まれ。いわゆる大量生産の製陶所が多いこの地域で育たれる中で、陶芸に出会ったのは高校生の頃。「焼き物の町に生まれながらも、焼き物は機械で出来てくるものだと思っていました。そういったものがあまり好きではなかったので、製陶所に務めるため工業高校に入る人が多い中、自分はサラリーマンを目指して普通科の高校に行きました。ただその頃偶然、母親の知り合いのお父さんが陶芸家さんで、ろくろで土を形作っているところを見て、これは面白そうだと思ったんです。」その陶芸家こそが冒頭で触れた野中春清先生。感銘を受けた塚本さんはそこから瀬戸の訓練校、多治見の意匠研究所へと進み、陶芸家へと道を進む。「学校へ通いながらも野中先生の所にも手伝いに行き、色々と教えていただきました。その後茶陶以外のことも学びたいと、アーティスティックな造形を作られる陶磁器デザイナーの浅井礼二郎さんのところにもお世話になりました。」
美濃焼の魅力は何かと尋ねると、「美濃焼というのはやはり種類が豊富。織部で赤織部、青織部など、志野でも鼠志野、紅志野や絵志野など、一つの手から色々と自由に変化して多彩であることが魅力だと思います。他の窯業地にはない美濃の特徴だと思います。」と語る。特に織部には拘りを持たれており、「古田織部さんが作った自由さ、崩れた美しさ、ひょうげた面白さに惹かれますし、また私の作品は鎬を多く使いますが、その鎬に織部釉が溜まったり、流れたりして景色を作っていくので、自分の作品と織部の相性も良いと感じています。」
その織部をアレンジし辿り着いたものの一つがこちらの辰砂茶盌。筆者が惹かれた作品だ。
織部釉を調合し、還元させて作るというこちらの作品、もともとは窯変織部と名乗っていた作品だ。織部釉が窯変し赤く染まり、また灰釉が青い炎のように窯変している。炭化した高台と、周りには銅がメタリックな景色を作り、見込みにも美しい窯変が彩られている。
そしてこちらも非常に珍しい伊賀織部の茶盌。
かつて桃山の頃に存在した、美濃伊賀とも呼ばれるこちらの手。いわゆる美濃で作り出された伊賀風の作風だが、まさに伊賀のビードロ感と織部の意匠が組み合わされた作風が魅力。辰砂も伊賀織部も、なかなか現代で作っている人を探すのが難しいほどレアな作風だが、どちらも美濃の伝統的な作り方に基づいて生み出されているのが面白い。様々な作風を作られる中で、非常に人気が高いのが朝鮮唐津。「故・中川自然坊さんと30年ほど前から交流があり、一緒に個展をした際になど色々とアドバイスを貰いました。」
毎年全国で10回以上個展を開催し、日本中を飛び回る、まさに旅する陶芸家。前述のタヒチは、20年以上前、とある展示で出会ったタヒチ唯一の陶芸家に、タヒチに招待されたことから始まる。「それからずっとタヒチに呼ばれていたのですが、コロナがあったりでなかなか行くことが出来ず、今年ようやくタヒチに行くことが出来ました。到着して2週間で作陶をして、その後作った作品の展示まで行って、また次回行くことも決まっています。国内でも毎年日本各地で個展を開いていて、期間中は必ず在廊していますので、北海道から沖縄まで、毎月どこかに行ってお客さんと直接会えるのが楽しくて。お客さんと食事したりゴルフしたり、それが一番の楽しみです。そういえばテニスもやっていて、全国大会に出たこともあるんですよ!」
アクティブでポジティブかつ多趣味。旅する陶芸家、塚本治彦さんのエナジー溢れる作品を、お楽しみいただけたら幸いである。