ウズベキスタンを代表する陶芸家、アリシェルナジロフさんのご紹介
by 森一馬中央アジアで最も古い歴史を持つ、ウズベキスタンのリシタン陶器。現在でも欧米をはじめ世界中にたくさんのファンを持っているリシタンにおいて、最も著名な作家アリシェルナジロフ氏の作品を初めて見たのは実はもう3年ほど前。アパレルバイヤー時代の筆者はカザフスタンのファッションショーに呼ばれ、中央アジアの文化に興味を持ち、お隣のウズベキスタンに様々な伝統工芸があることを知った。スザニと呼ばれる美しい刺繍に、マルギラン地区にあるシルクやコットンを用いたスカーフ、そしてリシタン地方にあるリシタン陶器。その全てを仕入ていく中で、リシタンを調べ尽くした結果たどり着いたのが、そのアリシェルナジロフ氏だった。
リシタン陶器と一言で言っても、当然美濃焼と同じように様々なものがある。しかし現在一般的に知られるのは、いわゆるウズベキスタンのお土産屋で売っているような安価なもので、どれも非常にカラフルでチープな釉薬がかけられ、いわゆる土産物の域を超えない。しかしアリシェルさんの作品は、現代のチープなリシタン陶器とは全く違う。彼はウズベキスタンの砂漠で取れるイシクールという植物の灰から、伝統的な製法を用いたイシクール釉でサマルカンドブルーやグリーンのリシタン陶器を現代に作り上げた唯一無二の作家。1800年以上の歴史を持つリシタンの伝統陶芸を次の世代へ継いでいくため、1998年にUsta-Shogird (先生-弟子)の陶芸工房を立ち上げ国の文化活動に貢献。2001年には大統領賞、そして2020年にはTURIZM FIDOYISI国家賞受賞とSHUHRAT国家賞受賞という2つの国家レベルの最高勲章を受賞している、まさに日本で言うところの人間国宝的存在。
ウズベキスタンの大統領、シャフカト・ミルジヨエフとナジロフ氏
「伝統的なリシタン陶器はイシクール釉を用いたマットなものが主流だった。しかしシルクロードを通ってウズベキスタンに中国磁器が入ってきた頃から、その影響を受けてリシタンでも艶のある釉薬が使われ、そちらが主流となっていった。そして時代が経つにつれ、釉薬や顔料に化学薬品を用いるようになってしまった。そういったものは数年経つと釉薬が剥がれてしまい、身体にとって良くないものが流れ出てしまう。リシタン陶器は土も釉薬も全て自然のもので造られるべきだ。」と語るアリシェルさんの作品はもちろん全て天然の素材から造られており、土ももちろんリシタンの軽い赤土が使われている。「リシタンの土にイシクール釉をかけ1400度で焼成すると、磁器にも負けない頑丈な陶器が出来上がる。」とアリシェルさんは言う。
90年代には日本とウズベキスタンの文化交流プログラムにより来日し、二代浅蔵五十吉さんの元に5ヶ月間滞在し、九谷焼の絵付けを学び交流を深めた。現在も当代である三代浅蔵五十吉さんと交流続け、いよいよ30周年を迎えようとしている。
二代浅蔵五十吉先生とナジロフ氏
リシタン陶器といえば草文、花紋、魚文、鳥文やザクロをモチーフとしたものが多いが、イスラム文化では神以外が生物を描くことが禁じられているため、魚文などは非常に抽象的に描かれ、それが作品にオリエンタルでミステリアスな雰囲気を与えている。
この度当店で作品を発表していただく中で、私達の希望と作家の熱意がちょうど一致し、なんと当店のためだけに茶碗と酒器を作っていただいた。アリシェルさんとしては初めて手掛ける作風であったが、当店の作家の作品を触っていただいたり、また映像通話で打ち合わせをしたりしながら、リシタン特有の意匠と日本の茶碗、酒器の造形が融合した美しい作品が届いた。そして今回全ての作品には、その作品をイメージした絵が書き込まれたシグネチャーカードと、ウズベキスタンのマルギラン布を用いた共布がリシタンの1000年以上続く歴史が生み出した本物のサマルカンドブルーを、是非ご堪能いただけたら幸いある。